国立大学・研究開発法人等の研究力の見える化 研究者の移動分析
1. 「見える化」の目的
学術、研究機関間(以下「機関」とする)の研究者の移動を見える化するシステムを構築した。具体的には、府省共通研究開発システム(以下e-Rad)の研究者情報から研究者の機関所属履歴を抽出し、これを機関間の人材移動情報として集計した結果を可視化した。本システムは、この分析が研究主体たる研究者の動態を明らかにすることで、人的資源配分の効率化を実現する政策立案ならびに機関の経営施策検討に資することを目的として構築された。
2. 「見える化」の方法
2.1 利用したデータベース
本分析に利用したデータは e-Rad の研究者の機関所属情報 2007 年~ 2019 年である。
2.2 研究者の所属機関履歴と機関間移動情報の抽出
図1に示す手順にしたがって e-Rad に収録されている研究者データから、研究機関の間の人材移動実績データを抽出した。
まず研究者番号ごとに研究機関、機関種別、就任日を抽出する。この結果をもとに、個別研究者の機関所属履歴のデータに変換する。これを元に、複数の所属履歴を持つ研究者について履歴から機関間の移動のデータに変換した。たとえば、A、B、Cの順に三つの機関に所属した履歴をもつ個人のデータを機関ペアのリストA から B および B から C の二件の移動データに変換する。機関間移動データ件数は約170,000件(2020年10月現在)であり、これを分析目的に応じて機関種別などにより可視化する。
研究者番号の一意性と一貫性は非常によく保たれており、所属機関名についても同様である。就任日についてはこの限りではないが、前後の順序が入れ替わるような誤りはなく、出身機関と新たな所属先の関係は正確である。したがって、訂正や欠損値推定などの措置を講じること無く図1に示す手続きによって直ちに信頼できる集計結果がえられている。
この集計から抽出された機関間移動データの機関種別、男女別、年齢別の内訳は以下のとおりである。
2.3 利用する可視化ツール
2.3.1 機関種別ごとの移動傾向の比較分析
機関種別ごとの移動傾向の比較分析を可能とするため、e-Radに保持されている研究者の所属情報から集計された個別の移動情報を、大学、公的機関、企業という機関セクターに集約し、それらのセクター間の移動傾向の違いをTableau分析ツールを用いて見える化した。
2.3.2 機関ごとの移動傾向の3次元分析
機関ごとの移動傾向の見える化を可能とするため、移動の多い機関同士をクラスターとしてまとめるとともに、人材の移動関係を3次元で見える化するツールを構築した。人材の移動パターンの局在性の検出には、Map Equation手法(注)を用いたクラスター分析を活用した。
(注)M. Rosvall, C.T. Bergstrom, Maps of random walks on complex networks reveal community structure, PNAS 105(4) (2007)を参照
<3次元可視化ツールの概要はこちら> <3次元可視化ツールの使い方はこちら>
3. 「見える化」の結果
3.1機関種別ごとの移動傾向の比較分析
上記の手法で抽出した機関種別の移動情報を性別、移動年代、移動前後のポストにおける任期の有無、雇用財源の性質等の条件を変えて「見える化」した例を示す。
図1は流動性の全体像を示しており、図2は男性、図3は女性の移動を見える化している。これらの例から分かるとおりこの「見える化」によって、移動前後(左右)にどのような経路があり、各径路をどの程度の人数(太さ)が移動しているかを直感的・俯瞰的に把握できるようになった。実際のツールでは移動経路上にマウスカーソルを置くことで人数等の数値情報が得られる。
3.2機関ごとの移動傾向の3次元分析
上記の手法で抽出した機関間移動情報を活用し、(1)全機関を対象としたクラスター分析を行い、(a)クラスターを構成する機関の違いを可視化するとともに、(b)一番大きなクラスター(クラスターNo.0)における移動構造を明らかにするための機関種別の違いの可視化、(2)年代の違いによるクラスター分析を行うことにより、年代の違いによる移動傾向の違いの可視化、(3)性別の違いによるクラスター分析を行うことにより、性別の違いによる移動傾向の違いの可視化、を実施した結果を示す。
(1)全機関を対象としたクラスター分析
全機関における移動クラスター分析を行ったところ、大多数の機関により構成されるクラスター(クラスターNo.0)と特定の機関種別から構成されるクラスターや特定の地域に所在する機関から構成されるクラスターなどに分かれる結果が得られた。
クラスターNo. | 機関数 | 移動の多い上位機関(5~20の範囲で1割を表示) |
---|---|---|
0 | 2,659 | 東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、九州大学、名古屋大学、理化学研究所、北海道大学、早稲田大学、慶應義塾大学、筑波大学、神戸大学、広島大学、東京工業大学、岡山大学、千葉大学、東京医科歯科大学、立命館大学、大阪市立大学、長崎大学 |
1 | 100 | 長岡技術科学大学、富山高等専門学校、仙台高等専門学校、東京工業高等専門学校、宮城工業高等専門学校、明石工業高等専門学校、宇部工業高等専門学校、福島工業高等専門学校、旭川工業高等専門学校、富山工業高等専門学校 |
2 | 73 | 甲南女子大学、姫路獨協大学、姫路大学、奈良学園大学、関西国際大学、藍野大学、梅花女子大学 |
3 | 31 | 札幌医科大学、北海道医療大学、北海道科学大学、北海道文教大学、名寄市立大学 |
4 | 30 | 農業・食品産業技術総合研究機構、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所、国際農林水産業研究センター、家畜改良センター |
5 | 29 | 小田原短期大学、大阪成蹊大学、大阪成蹊短期大学、大阪樟蔭女子大学、羽衣国際大学 |
6 | 28 | 日立製作所、日立製作所 中央研究所、日立製作所 日立研究所、日立製作所 横浜研究所、日立製作所 機械研究所 |
7 | 23 | NECソリューションイノベータ、日本電気、NECシステムテクノロジー、ルネサスエレクトロニクス、村田製作所 |
8 | 22 | 川崎医療福祉大学、岡山県立大学、関西福祉大学、吉備国際大学、山陽学園大学 |
9 | 18 | 三菱重工業 総合研究所、三菱重工業 長崎研究所、三菱重工業、三菱重工業 インダストリー&社会基盤ドメイン、三菱重工業 高砂研究所 |
10 | 17 | 東芝研究開発センター、東芝ストレージ&デバイスソリューション社、東芝デバイス&ストレージ、超低電圧デバイス技術研究組合、デバイス&システム・プラットフォーム開発センター |
11 | 17 | パナソニック、パナソニックシステムソリューションズジャパン、パナソニック電工、パナソニックモバイルコミュニケーションズ、アルボット |
(a)上記クラスターを3次元可視化し、クラスターを構成する機関の違いを可視化
クラスターNo.1, 4, 6では特定の機関種別に属する機関が多く上流に配置されていることから、他のクラスターに人材を輩出する傾向にあり、クラスターNo.2では機関は広く分布しているが下流に多く配置されていることから、他のクラスターから人材を受け入れる傾向にあることがわかる。また、クラスターNo.2はクラスターNo.1, 4, 6とは離れていることから、これらのクラスターとは人材の移動が疎遠であることがわかる。
(b)構成機関の数が最大となるクラスター(クラスターNo.0)を構成する機関種別の違いを可視化
クラスターNo.0に属する2,659機関について、機関種別の移動の傾向について分析を行った。
クラスターNo.0に含まれる機関種別の多い上位5種別は、民間(1,558)、私立大学(477)、短期大学(私立)(188)、独立行政法人(165)、国立大学(86)である。これらを表示すると下図のとおりとなり、中央に上流から独立行政法人●、国立大学●、私立大学●と配置され、その外側に短期大学(私立)●、最外側の上流に企業●が配置されるという関係性が見られた。このことから、独立行政法人、国立大学、私立大学は比較的密接な移動関係がある中、独立行政法人や国立大学は人材輩出機関の傾向が強い一方、私立大学は人材受け入れの傾向が強いことがわかる。また、民間企業は概ね人材供給側の傾向があるが、大学、独立行政法人等との人材移動は疎遠であることがわかる。
(2)年代の違いによるクラスター分析
60歳未満では非常に多くの機関が一つのクラスターに集まる一方、60歳以上では数多くのクラスターに分かれるといった傾向の違いが見られた。このことから、60歳未満では多くの研究者が機関種別や場所にとらわれずに移動している一方、60歳以上では数多くの移動パターンに分かれるといった研究者移動の傾向に違いがあることがわかった。
<60歳未満>
クラスターNo. | 機関数 | 移動の多い上位機関(5~20の範囲で1割を表示) |
---|---|---|
0 | 2454 | 東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、九州大学、名古屋大学、理化学研究所、北海道大学、慶應義塾大学、早稲田大学、筑波大学、神戸大学、広島大学、東京工業大学、岡山大学、千葉大学、東京医科歯科大学、立命館大学、大阪市立大学、長崎大学 |
1 | 85 | 長岡技術科学大学、富山高等専門学校、仙台高等専門学校、宇部工業高等専門学校、明石工業高等専門学校、旭川工業高等専門学校、福島工業高等専門学校、沖縄工業高等専門学校 |
2 | 72 | 甲南女子大学、姫路大学、奈良学園大学、関西国際大学、梅花女子大学、園田学園女子大学、藍野大学 |
3 | 28 | 札幌医科大学、北海道科学大学、北海道文教大学、名寄市立大学、札幌市立大学 |
4 | 28 | 日立製作所、日立製作所 中央研究所、日立製作所 日立研究所、日立製作所 横浜研究所、日立製作所 機械研究所 |
5 | 24 | 農業・食品産業技術総合研究機構、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所、国際農林水産業研究センター、家畜改良センター |
6 | 21 | 東京藝術大学、京都市立芸術大学、秋田公立美術大学、国立音楽大学、沖縄県立芸術大学 |
7 | 19 | NECソリューションイノベータ、日本電気、NECシステムテクノロジー、ルネサスエレクトロニクス、村田製作所 |
8 | 18 | 三菱重工業 総合研究所、三菱重工業 長崎研究所、三菱重工業、三菱重工業 インダストリー&社会基盤ドメイン、三菱重工業 高砂研究所 |
9 | 16 | 浜松ホトニクス、レーザックス、光産業創成大学院大学、TAKシステムイニシアティブ、原田精機 |
10 | 16 | パナソニック、パナソニックシステムソリューションズジャパン、パナソニック電工、パナソニックモバイルコミュニケーションズ、アルボット |
11 | 15 | 小田原短期大学、大阪成蹊大学、大阪成蹊短期大学、京都西山短期大学、名古屋造形大学 |
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data:young_anyを選択
edges:チェック無し、Cluster:1のみ選択
<3次元ツールはこちら>
data:young_anyを選択
edges:チェック無し、Cluster:2のみ選択
<60歳以上>
クラスターNo. | 機関数 | 移動の多い上位機関(5~20の範囲で1割を表示) |
---|---|---|
0 | 270 | 東京大学、早稲田大学、筑波大学、立教大学、慶應義塾大学、帝京大学、東京工業大学、明治大学、日本大学、千葉大学、中央大学、法政大学、理化学研究所、一橋大学、産業技術総合研究所、立正大学、帝京平成大学、東京都立大学、東京理科大学、放送大学 |
1 | 164 | 京都大学、大阪大学、神戸大学、立命館大学、同志社大学、関西学院大学、近畿大学、大阪府立大学、富山大学、関西大学、福井大学、摂南大学、京都橘大学、佛教大学、京都産業大学、京都工芸繊維大学 |
2 | 85 | 名古屋大学、中部大学、岐阜大学、名古屋市立大学、愛知医科大学、椙山女学園大学、藤田医科大学、日本福祉大学 |
3 | 62 | 国際医療福祉大学、順天堂大学、北里大学、東京医科大学、東邦大学、東京女子医科大学 |
4 | 59 | 九州大学、佐賀大学、熊本大学、九州工業大学、久留米大学 |
5 | 59 | 北海道大学、北海道文教大学、北海道教育大学、天使大学、名寄市立大学 |
6 | 48 | 東北大学、山形大学、福島大学、東北福祉大学、情報通信研究機構 |
7 | 35 | 岡山大学、関西福祉大学、環太平洋大学、奈良学園大学、山陽学園大学 |
8 | 24 | 新潟大学、目白大学、新潟医療福祉大学、愛知県立大学、関東学院大学 |
9 | 24 | 安田女子大学、広島国際大学、姫路獨協大学、兵庫大学、九州産業大学 |
10 | 23 | 大阪市立大学、兵庫教育大学、神戸学院大学、森ノ宮医療大学、宝塚医療大学 |
11 | 23 | 広島大学、福山大学、広島工業大学、広島経済大学、広島市立大学 |
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data:old_anyを選択
edges:チェック無し、Cluster:1のみ選択
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data:old_anyを選択
edges:チェック無し、Cluster:3のみ選択
(3)性別の違いによるクラスター分析
男性では非常に多くの機関が一つのクラスターに集まる一方、女性では数多くの地域を特徴とするクラスターに分かれるといった傾向の違いが見られた。このことから、男性では多くの研究者が機関種別や場所にとらわれずに移動している一方、女性では数多くの移動パターンに分かれるといった研究者移動の傾向に違いがあることがわかった。
<男性>
クラスターNo. | 機関数 | 移動の多い上位機関(5~20の範囲で1割を表示) |
---|---|---|
0 | 2564 | 東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、九州大学、理化学研究所、名古屋大学、北海道大学、早稲田大学、慶應義塾大学、筑波大学、神戸大学、広島大学、東京工業大学、岡山大学、千葉大学、立命館大学、東京医科歯科大学、産業技術総合研究所、大阪市立大学 |
1 | 95 | 長岡技術科学大学、富山高等専門学校、仙台高等専門学校、宮城工業高等専門学校、東京工業高等専門学校、宇部工業高等専門学校、福島工業高等専門学校、富山工業高等専門学校、沖縄工業高等専門学校 |
2 | 30 | 農業・食品産業技術総合研究機構、森林研究・整備機構、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所、国際農林水産業研究センター |
3 | 27 | 日立製作所、日立製作所 中央研究所、日立製作所 日立研究所、日立製作所 横浜研究所、日立製作所 機械研究所 |
4 | 25 | 日本電気、NECソリューションイノベータ、NECシステムテクノロジー、ルネサスエレクトロニクス、村田製作所 |
5 | 19 | 東芝ストレージ&デバイスソリューション社、東芝研究開発センター、東芝デバイス&ストレージ、超低電圧デバイス技術研究組合、カイオム・バイオサイエンス |
6 | 18 | 三菱重工業 総合研究所、三菱重工業 長崎研究所、三菱重工業、三菱重工業 インダストリー&社会基盤ドメイン、三菱重工業 高砂研究所 |
7 | 18 | 東京藝術大学、秋田公立美術大学、鶴見大学短期大学部、多摩美術大学、秋田公立美術工芸短期大学 |
8 | 18 | 日本原子力研究開発機構、量子科学技術研究開発機構、紀州技研工業、日本メジフィジックス、ライトタッチテクノロジー |
9 | 17 | 北翔大学、札幌国際大学、名寄市立大学、旭川大学、札幌大谷大学 |
10 | 17 | パナソニック、パナソニックシステムソリューションズジャパン、パナソニック電工、パナソニックモバイルコミュニケーションズ、アルボット |
11 | 17 | 公立千歳科学技術大学、北海商科大学、札幌国際大学、Kyulux、アンタス |
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edges:チェック無し、Cluster:1のみ選択
<3次元ツールはこちら>
data:any_maleを選択
edges:チェック無し、Cluster:2のみ選択
<女性>
クラスターNo. | 機関数 | 移動の多い上位機関(5~20の範囲で1割を表示) |
---|---|---|
0 | 679 | 東京大学、東北大学、早稲田大学、慶應義塾大学、筑波大学、北海道大学、理化学研究所、東京医科歯科大学、千葉大学、国際医療福祉大学、お茶の水女子大学、帝京大学、順天堂大学、日本医科大学、横浜市立大学、金沢大学、東京女子医科大学、立教大学、明治大学、日本大学 |
1 | 175 | 京都大学、大阪大学、神戸大学、立命館大学、大阪市立大学、同志社大学、関西学院大学、関西医科大学、近畿大学、奈良女子大学、福井大学、関西大学、龍谷大学、兵庫医科大学、国立循環器病研究センター、京都産業大学、国立民族学博物館 |
2 | 138 | 名古屋大学、三重大学、愛知医科大学、岐阜大学、名古屋市立大学、中部大学、日本福祉大学、藤田医科大学、椙山女学園大学、愛知県立大学、日本赤十字豊田看護大学、聖隷クリストファー大学、国立長寿医療研究センター |
3 | 134 | 九州大学、長崎大学、熊本大学、佐賀大学、山口大学、鹿児島大学、福岡大学、宮崎大学、大分大学、久留米大学、産業医科大学、福岡県立大学、長崎県立大学 |
4 | 103 | 広島大学、岡山大学、徳島大学、愛媛大学、高知大学、広島国際大学、香川大学、川崎医療福祉大学、川崎医科大学、県立広島大学 |
5 | 98 | 奈良県立医科大学、甲南女子大学、兵庫県立大学、大阪府立大学、和歌山県立医科大学、滋賀医科大学、京都府立医科大学、姫路大学、梅花女子大学 |
6 | 37 | 札幌医科大学、旭川医科大学、北海道文教大学、天使大学、北海道医療大学 |
7 | 27 | 富山大学、金沢医科大学、金城大学、福井医療短期大学、富山県立大学 |
8 | 26 | 東京藝術大学、国立文化財機構東京文化財研究所、国立文化財機構東京国立博物館、京都市立芸術大学、国立音楽大学 |
9 | 17 | 弘前大学、青森県立保健大学、弘前学院大学、弘前医療福祉大学、青森中央短期大学 |
10 | 16 | 鳥取大学、島根大学、島根県立大学、島根県立大学短期大学部、岡山理科大学 |
11 | 14 | 農業・食品産業技術総合研究機構、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所、国立科学博物館、国際農林水産業研究センター |
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